ギターはネックが命(反りねじれの直し方編)
昨今なんだか落ち着かない日々が続いていますが皆様しっかり生きていますか。カップラーメン等の保存食やトイレットペーパーが品切れで無いとか、ライブやコンサートの中止どころか、学校や会社、TDLやUSJなど巨大テーマパークまでも臨時休業する大変な事態になってしまっていますが、NAC#は元気にブログを書いてゆきます(だからなんだという無慈悲なツッコミは何卒ご容赦を汗)。まあさして行く処もなく家に引き籠らざるを得ない鬱系?なギタリストにとってはストイックにギター練習する好機と前向きに受け止めましょう!
さて、
掲題まるで「芸能人は歯が命」みたいな響きで恐縮ですが(知らない子はご両親に聞いてね泣)ニュアンスとしては遠からず、ギターのセットアップにとって最も重要なパーツはネック部分だと言えると思います。手で直接弾く弦との接点である事はもちろん、特にボディに空洞が無いソリッド型エレキはネック鳴りのウエイトも大きいですし、楽器としての弾きやすさにも直結する重要な要素ですのでベストコンディションを保つべく常に入念にチェックするよう心掛けましょう。
ネックの反りやねじれ
最も多い不具合がネックの反りやねじれ状態です。ギターは木材で作られている事がほとんどなので、そもそもの素材の質や造りの良し悪しがある事はもちろん、季節などによる気温や湿度の変化にも弱く、特に日本では乾燥する冬と湿気の多い夏を繰り返しますので、細長い為強度が落ちるネック部は意図せぬ形状変化を起こしやすいパーツと言えます。弦張力の強い太めのゲージを張っていたり、多弦ギターやベースなどではより頻繁に起こりがちなトラブルです。
反りとねじれのチェック方法
ネック異常の主な症状としては、
- 順反り状態はネック中央12フレット辺りの弦高が高くなりがち。
- 逆反り状態はローポジションフレット辺りがビビりがち。
- これらが部分的あるいは複合的に表れる重症ケース。
などが考えられますが、ネックの反りねじれの確認方法には下記のようなものがあります。
フレットの並びを目視で確認
ヘッド側やボディ側からフレットの並び方を中心に目安に見て確認します。コツは木材部分ではなくフレットの並び具合を光の反射で見る事です。軽度の反りは目視ではわかりにくいですが、捻じれの場合は1弦側と6弦側に様々な差異が生じますので気づきやすいでしょう。ときどきネック全体を色んな角度から見る癖をつけましょう。ここで違和感があればより精度の高い下記チェックを実施します。
弦の張り具合で確認
各弦ずつ、1フレットと最終フレット(あるいは3フレ~17フレ等)を両手で押さえ、その間の弦とフレットの間隔を確認します。「目視で極わずかに隙間が見える」か「中央間を叩くと微かにカチカチ鳴る」くらいの薄紙が入る程度が正常適正値で、それより隙間がある場合は順ぞり、完全にぴったりついてしまうのは逆ぞり状態と言えます。(※あまりチョーキングをしないアコースティックギターなどでローポジションでの響きを優先し敢えて順ぞり気味の設定を好んだり、あるいは全ポジションで厳密に限界を追い込む調整でぴったり付く寸前のドストレートに近い程度で整える場合があります。)
鉄製定規で確認
弦を使った確認方法と同様ですが、鉄製の定規(50cm以上推奨)を1~最終フレットに当て、その隙間発生具合で確認します。1弦側・中央・6弦側と3か所程確認すると良いでしょう。弦を張りチューニングした状態で、極僅か中央フレットが触れない程度か、全てのフレットに均一に付く状態が理想的と言えます。中央に乗り、先端や後端が浮く場合は逆反りです。
ねじれに関して
基本的には上記のチェックで1弦~6弦の状態の差異で推測しますが、一口にねじれといっても全体的に一方向均一にねじれているとは限らず、特定の一部分だったり、最悪指板面やフレット頭が複雑に波打っているような重症ケースも考えられますので、疑わしい場合は計測時にフレットを小分けにして異常部分を絞ってゆきます。が、1弦よりも太い巻弦である6弦の方が弦の振動幅が大きく音量も大きいのでビビリ対策として「わずかに6弦側が起きている微ねじれ状態が理想的」と考える人もいます。
反りの直し方
ほとんどのギターネックには「トラスロッド」という撓んだ鉄芯が挿入されており、これを回し内部から加圧矯正する事である程度反りを補正する事が出来ます。
トラスロッドでの調整方法
ネックのヘッド側、あるいはボディ側にトラスロッド(鉄芯)の調整口があり、六角レンチやドライバー等で調整します。
順反りの場合はネックに向かって時計回しに締める。
ヘッドが指板側に浮き上がる順ぞり状態の場合は時計回りに締めると改善します。特にネック中央10~12F辺りの弦高が高い場合は順反り症状を疑います。
逆反りの場合はネックに向かって反時計回りに緩める。
ヘッドが指板裏側に向かう逆ぞり状態の場合は反時計(逆)回りに緩めると改善します。特にローポジション(ヘッド寄り)フレットがビビりやすい場合逆反り症状を疑います。
ロッドを回すと図の矢印とは逆方向に効くイメージです雑でテキトーな絵でごめんなさい笑。イラストのグレー色が弦(指板)がある側です。「どのくらい回せばどのくらい効くか」に関してはメーカーや型、個体の状態によっても大きく違いますので、少しずつ確認しながら行う必要がありますが、トラスロッドはネック内部から木材を矯正する構造のものなので、いきなり大きく変化させると木の内部が著しく凹んだりヒビが入ったり割れてしまったりする恐れもありますので少しずつ慎重に。また、加圧した直後は部分的に力が加わっただけでも、時間が経つとその変化(力の伝達)がネック全体に馴染んでくるケースもありますので、個人的なイメージとしては時計盤5~10分(30~60度)程度まわしたら1日様子を見る感じです。
トラスロッドが全く効かない場合
稀に、トラスロッドを締め方向に回しても硬く詰まった感じで回らない事がありますが、トラス調整の限界まできているか、ネック内部接合部での劣化なども考えられます。その場合、フレット打ち直し(リフレット)時ある程度なら効きを取り戻す事が出来ますのでリペアマンに相談しましょう。最悪トラスロッドのはめ替えが必要となりますがかなり高額な大手術です汗。
ねじれの直し方
ねじれの場合、安易にトラスロッド調整するのではなく、まず緻密な状態の確認が肝心です。「どの部分がどのくらいどうなって」総合的にねじれているかを把握する事が極めて重要となりますが、これにはかなり熟練の目利きスキルが必要ですので、基本的にはプロのリペアマンに矯正を任せたいところです。
が、
軽症の修正だったり、症状を少々緩和させる程度の事なら素人にも出来なくもないのでご紹介します。
ネックを外しフレット面を下に平らで硬い床に置き休ませる
元々造られた段階では概ね真っ直ぐだったはずのギターネック。弦の張力や普段立て掛けて保管している外圧などから完全解放し、自重の均一でソフトな圧力を長期間(10日程度目安)加える事で自然と元に戻る力を促します。いうなれば自然治癒療法です笑。木材が形状記憶合金の如く完全に復元するはずもありませんが、軽微なねじれは意外と直ります。
ネックをストレッチ整体マッサージする
マッサージと言っても揉むとか撫でるとかではなく、人間の整体に近いニュアンスです。これ冗談じゃなく結構効きます。たしか、そんなギターリペアの先生もどこかにいらしたような。コツは瞬間的な力ではなく徐々に加圧すること。かなりしんどい力技ですが、じんわりとした力でじっくり長時間かけてねじれを整えてあげる、みたいなイメージです。なんせ木材なんでね。勢い任せ力任せにいけば普通にヒビ入ったり折れますから自己責任で。場合によってはストレッチと床放置をコツコツ気長に繰り返すと更に相乗効果的。
湿度を整えてみる
ギターの最適な保管湿度は凡そ50%程度とされています。常に最適な湿度を保つ事が理想ではありますが、湿度管理が出来ず著しく状態が悪化していた場合、日常保管している場所の湿度を逆にしてみるといい結果につながる場合があります。例えば常にジメジメした場所で保管していたのであれば少し乾燥させてみたり、カラカラな処だったのなら加湿して長期観察してみましょう。それで症状が改善するようなら、時々でも良いので湿度を整えたりオイルなどで保湿したりといった予防対応策が効果的です。また、極度の乾燥はネック痩せ(細り)の原因にもなり程度が酷いとフレットエッジ端のバリ取り処理が必要になりますので日常の保管環境は常に意識しましょう。重要なのは悪いままの状態をずっと定着させない事です。
フレット擦り合わせや指板削りでの調整
本格的な改善方法としてですが、緻密なねじれの把握や補正が難しい場合など、ネックや指板面の微調整を諦め、フレットを削って張弦面に対する高さを強制的に整える最終手段の力技もあります。本質的な改善とは少し違うアプローチかもしれませんが、現状の指板の歪みは無視しフレット高を物理的に整えるので、確実で効果的な方法ではあります。リペアマンの技量問われる作業ですが、最近ではコンピューター解析などを用いたかなり高精度(0.01mmレベル)な作業が可能な処もあります。フレット交換時などであれば熱やスチームで指板面をフラットに整えるネックアイロンや、極僅か物理的に指板面を薄く削って整形する方法も有効な選択肢となるでしょう。
ギターの状態に敏感になろう
さて今回はネック自体の反りとねじれ症状の話をしてみましたが、他にもペグ・ナット・指板・フレットや、ボディ部で言えばブリッジ・ピックアップ・電気系など、楽器として重要な部分は多く存在します。一番大切なのは「正常な状態を認識し異常に敏感になる」こと。重症化する前の段階でマメにケアし手当てしてあげる事が長生きの秘訣です。
「暫く弾かずに放置してたら知らぬ間に色々錆びついてました」じゃあ可哀相です(経験者)。ギターは定期的に触って大切にしてあげましょう。ちなみに後日「ギターネック打コン修理」に関しても記述しましたので興味あればぜひ。
ギタリスト音楽論として
「弦高調整でビビリ音と弾き易さが激変する話」や、
「ギターチューニングが合わない原因と対処法」、
「ギター指板R(ラジアス)による弾き心地の違い」などもご参考になれば幸いです。